東京高等裁判所 昭和26年(う)1935号 判決
記録を閲するに被告人に対する昭和二六年(わ)第五六号事件の起訴状の謄本が同年三月一日午前十一時に被告人在監中の八王子少年刑務所において同所長代理看守高橋庄平に送達されたこと、従つて同日午前十時開廷の同事件の原審第一回公判は右起訴状謄本の送達前に行われたものであり、且つ被告人に対する同公判期日の召喚手続も適式になされていないこと、同公判において右事件が被告人に対する昭和二五年(わ)第五九七号事件と併合審理せられたことは何れも論旨指摘のとおりである。ところで被告人に対する第一回の公判期日の召喚状の送達は、起訴状謄本の送達前になすべからざること刑事訴訟規則第一七九条の明規するところであり、従つて原審が被告人に対する昭和二六年(わ)第五六号事件の起訴状謄本送達前に、適式な公判期日の召喚手続をなさずして所論第一回公判を開いたことは、所論のとおり右規定に違反するものと云わざるを得ない。しかしながら右規定は要するに被告人の防禦権の行使を全からしめんとする趣旨に出たものと解すべきところ、前記第一回公判期日並びにその後併合審理せられて終結に至るまでの原審各公判期日を通じ、被告人又は弁護人より所論の点に関し何等異議の申立をした形迹が窺われないので、原審における前記手続上の瑕疵は被告人及び弁護人のこれに対する異議権の放棄によつて治癒せられたものと見るのが相当である。然らば原審の訴訟手続に所論のような瑕疵があつても、これがため所論の如く公訴提起の効力に影響することなきは勿論、公判手続の効力を左右するものでもない。又被告人並に弁護人において前記の如く所論の点に関し異議の申立をしなかつたのは、畢竟異議申立により防禦権を行使するの必要なしと認めたるが故にその措置に出でなかつたものと認めざるを得ないから原審の右手続上の瑕疵により所論の如く被告人の防禦権が不法に制限されたとは断じ難く、なおこれがため原審の審理に不尽の廉があるとも云えない。論旨は理由がない。